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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(マ)104号 決定 1969年7月04日

申立人

安藤善平

代理人

長尾憲治

右申立人は、昭和四一年(マ)第四四号承継執行文付与申請事件につき、

当庁裁判所書記官定益六三四が同年七月二〇日した執行文付与拒絶処分に対し、

異議の申立をしたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件異議申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立代理人は、本件執行文付与拒絶処分を取り消したうえ、更に相当な裁判を求める旨を申し立てたが、その理由とするところは、別紙のとおりである。

職権をもつて審按するに、民訴法五一六条二項の定めるところによれば、訴訟が上級裁判所に係属するときは、その裁判所の裁判所書記官が執行文付与の権限を有するところ、右にいう訴訟が上級裁判所に係属するときとは、上級裁判所において訴訟が完結し、その訴訟記録を他の裁判所に送付する手続を完了した時までを指称するものと解するのを相当とする。すなわち、裁判所書記官は、執行文付与申請人の提出する資料などのほか本案の訴訟記録に基づいて執行文付与申請の適否を判断するのであるから、訴訟完結の時点において、本案の訴訟記録のない他の裁判所の裁判所書記官に執行文付与の権限を認めるのは相当でなく、他方上級裁判所において、係属訴訟が完結して本案の訴訟記録を他の裁判所へ送付してしまつた後においても、なお同裁判所の裁判所書記官に執行文付与の権限を認めることは、難きを強いるとのそしりを免れないからである。したがつて、上告審が上告棄却の判決を言い渡し、上告審の裁判所書記官がその訴訟記録を第一審の裁判所書記官へ送付する手続を完了した後においては(民訴法三九二条、三九六条参照)、上告審の裁判所書記官は、執行文付与の権限を失うものというべきである。

ところで、裁判所書記官の執行文付与拒絶処分に対し異議のあつた場合には、民訴法二〇六条の定めるところにより、その裁判所書記官所属の裁判所が右異議につき裁判をすべきであるが、その裁判をなす際に、既に当該裁判所の裁判所書記官が執行文付与の権限を失つている場合にあつては、仮に右拒絶処分が失当であつても、もはやその裁判所書記官から執行文付与を受ける余地はなく、また右拒絶処分によつて、当該事件につき重ねて執行文付与の権限を有する裁判所書記官にその付与申請をすることが妨げられるものでもないから、このような場合には、右拒絶処分をした裁判所書記官所属の裁判所に右拒絶処分につき異議を申し立てる利益はなく、したがつて、かかる異議申立は、不適法として却下を免れないものといわなければならない。

記録によれば、本件の本案訴訟は、昭和四一年三月二五日当裁判所の上告棄却の判決言渡によつて完結し、その判決正本は、同月二七日上告人芝田由千代に、同月三〇日被上告人(本件申立人)に、それぞれ送達されたのであるが、同人は、同月三一日当庁に上告人芝田由千代および堀江道彦に対する承継執行文付与申請をし、同年七月二〇日当庁裁判所書記官の執行文付拒絶処分を受けたところ、当庁裁判所書記官が同年九月六日第一審である東京地方裁判所の裁判所書記官へ右本案訴訟の訴訟記録を送付する手続を完了した後に至つて、同年一〇月六日当裁判所に右担絶処分につき本件異議を申し立てたことが認められる。

右事実関係のもとにおいては、当庁裁判所書記官は、同年九月六日、本件につき執行文付与の権限を失い、したがつて、その後に至つてされた本件異議申立は、不適法として却下を免れないものというべきである。

よつて、申立代理人の異議申立理由について判断するまでもなく、本件異議申立を却下し、申立費用は申立人に負担させることとし、裁判官全員の一致で、主文のとおり決定する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

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